Z ZONE

2025.12.11

『預からずに、その場で直す』を意識して。生活を滞らせない“町の自転車屋さん”|サイクルワークス マツザキ

Z ZONEがおくる、“町の自転車屋さん”のインタビューシリーズ。
第十九弾は、西八王子と高尾の間に位置する「サイクルワークス マツザキ」さん。
いちょう並木沿いに位置するサイクルワークス マツザキさんには、通勤・通学など生活の中で自転車を利用する多くの人々が訪れています。
今回は、三代目店主の松崎秀雄さんから、お店の歴史やこだわりについてお話をお伺いしました。創業100年を迎える老舗自転車屋の裏側をお届けします。

創業は大正13年の歴史あるお店

左から松崎恵さん、松崎秀雄さん

―本日はよろしくお願いします。まず、はじめにサイクルワークス マツザキさんの創業からこれまでについて教えてください。

秀雄さん:大正13年。今から約100年前に、この地に店を構えました。現在、私は三代目です。

実は、創業は大正13年とは言っているのですが、正確な開業時期は不明なんです。

―どういうことでしょう?
秀雄さん:店舗の裏の母屋が大正13年に建てられたので、その時に一緒に店を開いたのは間違いないのですが、それ以前の写真にすでに『貸自転車』という看板が写っていたので、もしかしたら、ここに店舗を構える前に自転車に関わる仕事はしていたのかもしれません。

―謎に包まれているんですね。

秀雄さん:そうなんです。初代が早く亡くなり、私も子どもだったので創業当時のことは詳しくは聞いてないんですよ。

店頭を彩るオシャレな看板

―ちなみに100年前のこの辺りはどのような様子だったかはご存じですか?

秀雄さん:あまり家はなく、家から裏手にある川原に行くのにも草がボーボーだったと聞いています。

―子どもの頃の思い出はありますか?

秀雄さん:ものすごいお客さんいっぱい来ていました。ウチのおばあちゃんがすごく綺麗な人だったんですよ。あとは話も面白くて人気でしたね。ですから、おばあちゃん目当てに用がない人も来店されていたんです。

八王子市内の方から、わざわざ自転車をパンクさせてやってきた人がいましたね(笑)

当時は、おじいちゃんとおばあちゃんで店を経営していたのですが、おじいちゃんは酒が好きで店を空けることが多かったんです。

購入いただいた自転車を相模湖のお客さんの元に届けて、自転車の代金で飲みに行き、朝から夜まで帰って来なかったという話も聞きました(笑)

その時は、おばあちゃんが店番ですね。

とにかく酒のために働いているような人で……。
でも、私は一滴も飲めないんです。自転車屋さんは受け継いだけれど、酒好きは受け継いでないですね。

目の手術をきっかけに、甥っ子さんと3人で経営

―現在、働いているスタッフについて教えてください。

夫婦2人と甥っ子の石井潤さんの3人スタッフで営業中

秀雄さん:私たち夫婦と甥っ子の3人で働いています。
私と甥が修理などの技術担当で、家内は接客を担当しています。

―甥っ子さんは、働きはじめてどれぐらいですか?

秀雄さん:3~4年ぐらいですね。甥っ子は家内のお兄さんの息子なのですが、彼がたまたま仕事を辞めて就職活動をしている時に、私が目の手術をしたんですよ。その時に、片付けや配達などの手伝いに来てもらったんですね。

目の手術なので、術後もすぐに以前のように修理の現場に戻れず、なかなか大変な状態だったので、そのまま甥に手伝ってもらい、その流れで自然と働くようになりました。

去年、自転車技士と自転車安全整備士の資格を取得したこともあり、今は本格的にお店のスタッフとして働いてもらっています。ただ、まだ修行中の身なので、彼にも資格をとってからがスタートだと話していますね。

―将来、甥っ子さんは四代目でしょうか?

秀雄さん:まだそういった話は出てきてないですね。まだ先はわからないです。

大変だとは思いますが、やりがいはあるので、もし彼が自転車屋さんをやりたいと思えば続けてもらいたいです。

『預からずに、その場で直す』をモットーに

―お店の特徴やこだわりを教えてください。

秀雄さん:修理に関しては『預からずに、その場で直す』ことを基本にしています。
ここは駅からも遠く交通が非常に不便なので、自転車が必需品なんですね。ですから、極力その場で直すようにしています。

部品もかなりストックしていて、すぐに対応できるようにしているので、長時間、預かることはほぼないですね。純正品の部品が必要などの理由で、預かる場合も、電動自転車も一般自転車も代車を用意して生活が滞らないようにしています。

そのポリシーは、先代から変わらないです。
預かるとしてもなるべく短い時間で、近くにマクドナルドがあるので、コーヒー一杯飲んでいる間に終わらせるようにしています。特に今年の暑かった時はみなさん、ほぼマックに行かれていましたね。

現在は2人で修理していることもあり、お客さんが重なった時でも待ってもらうことは減りました。経験値は私の方が上なので、技術が必要なことは私が担当し、甥っ子にはできる修理をやってもらっています。その間に妻には接客をしてもらっており、最近は自然とチームワークができています。

「マツザキさんで買って良かった」の言葉がやりがいに

―お客様はどのような方が来られますか?

秀雄さん:地域の昔からのお客さんが一番多いですね。あとは大学があるので学生さんも来られます。

最近は修理ができるお店が近隣から減ったこともあり、新規のお客さんが増えました。
ウチは朝9時から夜7時まで営業しているんですが、夜の6時過ぎに電話がすごく多いです。

自転車を全て中に入れてシャッターを閉めようかなと思ったら「今日、直せますか?」という電話がかかってくるんです。その時は、お客さんに「待ってます」と伝えます。なるべく生活が困らないようにと思っています。

――仕事のやりがいはどのような時に感じますか?

秀雄さん:「マツザキさんで買って良かった」「マツザキさんの自転車ってやっぱしっかりしているね」と言ってもらえた時は、嬉しいんですね。そう言われるように常に頑張っています。

先代から受け継いでいることですが、組み立てをした自転車が戻ってこないことを意識しています。

それと、やっぱり修理ですね。難しい修理が直せた時にやりがいを感じます。
極力「NO」は言わないで、なるべく直すようにしています。
それは甥っ子にも教えています。最後までやってみるという心意気ですね。

諦めるのは簡単じゃないですか。でも、部品のせい、メーカーのせいにする前に、まずやってみようと。諦めなければ修理できることもあります。
例えば、締めたり緩めたりするものでも、力が7割で、技術3割が必要な時があるんですよ。簡単に諦めると、なかなかその技術の3割を覚えられないんですね。技術を身につけるためにも、簡単に諦めないことが大切だと思います。

メンバーは100人超え! マウンテンバイクのチームを運営

―印象に残っているお客様はいらっしゃいますか?

秀雄さん:30年ほど前に、100名近いマウンテンバイクのチームを組んでいたんですよ。

全日本に出ている子たちがいて、結構、有名なチームでした。
その頃の仲間達が、今でも時々「松崎さん、元気ですか?」って来るんですよ。
でも、みんな年齢を重ねているから容姿が変わってしまって、一瞬「誰?」となることもあります(笑)

でも、話すと、みなさん思い出します。
チームを組んでいたのは30年ぐらい前なのですが、忘れないで来てくれるのはうれしいです。近くを通った時にふっと寄ってくれるんです。「〇×に行ったね!」と昔話で盛り上がりますね。

―松崎さんはマウンテンバイクのチームを組んでいたということですが、仕事も趣味も自転車漬けという感じでしょうか?

秀雄さん:私は最初からずっと自転車屋だけど、自転車は趣味じゃないですね。
怒られちゃうかもしれないですけど、自転車乗るもんじゃなくて売るもんだと思ってるんですよ。

だから、マウンテンバイクのチームも下りばっかり。なんで下りが好きかというと、非日常的なことが好きなんですよ。趣味はサーフィンですが、波乗りに似てる感じですね。

板で波の上を走る。自転車で山を下る。非日常的じゃないですか。そういうことが好きなんですよ。

チームで一緒によく富士見パノラマダウンヒルに行っていたんです。その時は、私は自転車屋さんだということを忘れたいので何一つ工具持っていかないんです。お客さんの方が良い工具持ってます(笑)

もちろん事前に整備はしておきますよ。壊れちゃったら困りますからね。

私の場合は、趣味でお店を始めたら絶対ダメだと思っています。そこはビジネスだと割り切っていますね。
本来は自転車をいじったり修理したりしたらお金をいただくのが当たり前じゃないですか。だけど、趣味の延長だとボランティア的な精神が出ちゃう。優しさが出るとお金をいただけないですよね。

趣味ではじめて成功している人もいっぱいいると思うんですけど、私はできないです。

当たり前のことを当たり前にできる自転車屋を目指して

―今までいろいろとお話を聞いてきましたが、今後の目標はありますか?

秀雄さん:基本は今まで通りです。
店の中の工具はキレイに片付ける。自転車もプライスがしっかり見えるようにする。というような、当たり前のことを当たり前にやるという感じですね。

キレイな店内が印象的

基本って忘れてしまうんですよ。
ウチの母親の弟が立川で自転車屋さんをやっていたんです。おじさんの店は駅前の小さいお店なんですけど、常にキレイでしたね。おじさんには、基本を忘れるなってずっと言われていましたね。今でもその精神を受け継いで店をキレイにしています。

今の時代ですから、もちろん先を見ないわけではないんです。でも、先を見過ぎると、失敗します。まずは足下を固めることが大事ですよね。

時代の先端を行くのも良いですが、やっぱり基本をしっかりしないとダメですね。これがダメだから、あっちをやろう。こっちをやろう。ではダメです。やっぱり、一本太い柱がないといけません。柱を固めるのは大変な時もありますよ。だけど、辛抱しないと。

社会はどんどん変わってますからね。生き残っていくには、やっぱり柱を強くすることが必要なんだと思います。

―これから来られるお客さまに向けてのメッセージをお願いします。

秀雄さん:困った時には、一度ご相談に来てください。他店で購入した自転車の修理も行っていますので、気軽にお立ち寄りください。

おわりに

創業100年超えの長い歴史をつないできた、サイクルワークス マツザキ。
その背景には、若い頃から数多くの自転車店を巡り、先輩職人たちの技術や心意気を吸収してきた秀雄さんの、揺るぎない自転車への強い想いがありました。

そうして培われた確かな技術と、お客様一人ひとりを思いやる姿勢が、地域に根を下ろした“太い柱”となり、今のサイクルワークス マツザキを支えています。

受け継がれてきた職人の腕と、気さくで頼もしいスタッフの皆さんが迎えてくれる温かいお店です。ぜひ自転車の悩みがある時は気軽に訪れてみてください。

【Information】
店名:サイクルワークス マツザキ
住所:東京都八王子市並木町20-1
電話:042-661-6406